こんな方におすすめ
- リバランスと利確の関係が理解出来ていない方
- 債権の保有の仕方について考えている方
- リスク制御の考え方を深堀したい方
資産運用をしている時に避けられないのが、利益の確定、通称利確です。運用している以上、どこかで現金にして使うというのがありますから、当然ではあります。しかし、利確は本当にそれだけかというとちょっと違っていて、資産割合の是正と言った形で利確を頻繁にすることになります。
この記事では、利確について考えたあと、債権不要論と呼ばれる考え方を紹介し、リスク管理の一案を説明したいと思います。
利益確定行為(利確行為)の本質はリスクの抑制
利確
利益確定行為のことを利確と言いますね。一般的には、現金に換えることも多いですが、利確のため「金」に換えたり、「債権」に換えたりする人も多いです。ですから、利確の本質とは、儲けをリスクの低い金融資産に移動すること、であると言えます。つまり、リスクを抑制する行為であるということです。
リバランス
確定拠出年金関係の教育では頻出するリバランスです。リバランスとは、「ポートフォリオの割合を是正すること」と定義しているはずです。これの意味する所は「利益の出た資産はリスクが高くなっている(次の下落が待っている)」から「割安で現在儲かっていない資産に資金を移動する」ということを示しています。
先ほどの利確と比較してみると、まったく同じことをしています。つまり、リバランスとは利確行為の一つであり、リスクを抑制する行為であることは明確な訳です。
キャッシュポジションもリスク抑制行為
類似する用語で「キャッシュポジション」なる言葉があります。平たく言えば、「現金を持つこと」を示す言葉です。現金の量によって、厚いとか薄いとか言います。要は保有割合を厚さで示しています。キャッシュポジションを取るというのは、「現在はリスクが高いから、リスクを抑えよう」という動きの表れであり、「今は好調だけど、もう少しで景気が減速するかもしれない」という判断の表れとも言えます。結局、上記と同じで、リスク抑制行為であるわけです。
このキャッシュポジションですが、自前資産の運用だけで許される特権でもあります。他人の資産を預かっている場合、効率的な資産運用が求められますから、基本的にはキャッシュポジションは許されません。そもそも目論見書に記載されている枠内でベストを尽くすことがプロには求められます。債権の商品なら債権だけでしょうし、株式の商品なら株式だけにしか投資できません。「フルインベストメント(=全資金を運用すること)」を掲げている商品も多く、その場合、予備資金は殆ど用意できません。
キャッシュポジションと利確の関係
上記では、あたかもキャッシュポジションが特殊な様に書いていますが、別にそんなことは全然ないのです。キャッシュポジションとは、最もリスクの低い「現金」という金融資産を多く持っている状態を示しているにすぎません。利確というのは、資金の移動先として何通りかのパターンが考えられて、最も用途に合う物を選ぶ必要があります。
ここで現金について、考えてみましょう。現金とは、中央銀行の発行している金券、つまり債権です。そして、以下の様な特徴があります。
- 発行元は国(国債と同様)
- 債権より高い流動性
- 利率は0%だが、リスクも0(変動なしの固定)
現金は債権の一種、と思うなら、資産を現金に換えるのも債権に換えるのもリスクは違えど実態は同じということになります。
そうなると、最適な方法が気になってきます。以下の資産の中で、最も良い利確のための資金の移動先はどれでしょうか?
- 現金
- 国債もしくは金
- 債権(格付けによりリスクは変動。投資適格社債がBBB以上のもので構成、投資不適格社債はそれ以下)
- 株式(個別銘柄次第。景気敏感株なのか安定株なのか等)
最適な資金の移動先とは?
「最も良い」とは定義が難しいです。最適な方法を真面目に考えれば、各金融資産の相関性を考え、保有比率を適切に設定することでしょう。しかし、そこまでやるのが「最適か」というと違いそうです。運用には手間というのが発生するので、労多くして益すくなし、というのもありますから。勿論、運用資金が10億を超えるのであれば、そういったことを考えていくべきでしょうが、個人投資家の範囲だと割に合わないなあという感じになります。
そういった事情もありますから、「最適」とは一般的な個人投資家にとって、という注釈をつけることにしましょう。そして、運用益にのみ焦点を当てるのではなく、「手間」や「目的」に合う利確行動を最適な利確行動と考えましょう。
前提は上記の通りにして、さっそく考えていきましょう。
手間を考えると、長期保有してもある程度日本円での価値が担保される物であってほしいと思います。
そうなると
- 同じ金融資産内で移動させても本質的なリスクは抑制出来ないので、リスクの大きい株式に変更するのは利確としては成立しないとして除外しましょう。
- 金も同様で、値動きは結構激しく、とてもじゃないですが利確には使えません。また、歴史的な経緯もあり基軸通貨のドル建てが普通なので、円で生活している我々の利確にはなりづらいです。
そのため、ここまでで、現金・債券・国債と3択に絞れる訳です。
債権を考える
国債も債権の一つではありますから、債権一般について考えてみると、債権の値動きは長期金利の影響を受けるとは言え、株式に比較すれば相当マイルドで、しかもインフレ率をカバーできる程度は利率がつくことも商品によっては期待できそうです。国内債券は利率が微妙でも、為替ヘッジありの海外債券を購入することで、「最適な利確」と言える可能性があります(通常為替ヘッジはコストになるのでつけないことも多いですが、ここでは必要でしょう)。
次に考えないといけないのは、利確の目的です。消費行動が目的であれば、現金一択でしょうから、ここでは「次の投資のための準備資金」を用意するのが利確なのだと言えます。そうなると、資産の流動性も非常に重要になってきます。いざ投資したいと思った時に動けないのでは困ってしまいますから、当然考慮すべきです。それを考えると、国債を含め、債権は合格でしょう。基本的には市場で売買が出来、流動性は非常に高いです。「狙った額」でなくても許容できるのであれば、割とすぐに現金化できる、流動性の高い資産であると言えます。
一般個人投資家の債権不要論
では、「用意した準備資金」を使うのはいつなのか?それは勿論、株式などの金融商品の価格が下がった時です。本来であれば、株式を保有して、利益を得る機会があったのに、それを手放してまで準備資金を手厚くするほどの価格下落です。
…そうです、株式が暴落した時です。具体的には20%以上価格が下落した時にその準備資金を使いたいはずです。では、その時の債券価格は?というと、株につられて、大幅に安くなるのです。リーマンショックしかり、コロナショックしかり、です。勿論、株式より早く値は戻りますが、一番株が安くなっている状況で株を買い漁れなくなるのも事実です。つまり、個人投資家にとって、リスクを抑えるときというのは、「暴落に備えるとき」であり、その暴落では「債権もつられて下がる」状況でありながら、「その時に資金を使いたい」という要望があったりします。
上記に基づけば、「個人投資家は債権不要」という戦略が出てくるのはお分かり頂けるでしょう。通常の相場では、債権の値動きと株式の値動きは割と反対に動くとも言われていて、それはリスクヘッジになっていたのですが、こと暴落だけは話が別です。両方同じに動くケースがこれまでの暴落では頻発しています。
債権不要論支持者の主張
確かに、債権を入れないことで、「利子所得の取得機会」は失うことになりますし、運用資産効率は下がるでしょう。
しかし、代わりに以下のメリットを享受することが出来ます。
- 現金化の売り時を考えなくて良くなるため、判断が不要になる
- 「株式を底値で購入する機会」を得られる
- なんだかんだ「額面の変わらない安心」を得られる
長期的には「運用資産効率の低下」が気になります。しかし、ここの利確の目的は、「次の投資のための準備資金用意」という物なので、資産準備に不確定性は混ぜるべきではない、という考えることも出来ます。これが債権不要論支持者の考える基本思想なのだと考えられます。
債権不要論におけるリスク制御
債権不要論におけるリスク制御は非常にシンプルです。現金の量でリスク抑制力が決まりますから、リスクを抑制したいときは現金を多く持つだけです。
では、この現金をどう用意するか、という話になりますが、二つしか思いつきません。
- 利益の出ている銘柄を売却すること。
- 積立投資をしているのであれば、その内一部を現金として保持すること。
後者については、少しだけ補足しましょう。例えば、月3万円を投資に回していた人が、月1万円は投資用準備資金として現金保有する様にする、ということを意味しています。
問題は「どの程度現金を持つか」ですが、それについては、また別途論じたいと思います。
総括
利確とは何かを突き詰めて考えて、結果として債権不要論にまで踏み込んでみました。個人的には「考えるのが面倒だから現金で良い」くらいに初めは考えていましたが、色々と調べながら考えを詰めていくと、個人投資家にとって非常に合理的な考えに思えてきましたので、議論経緯を記事にしました。
他に本業を持つ一般個人投資家は「単純に」「分かりやすく」運用ルールを引くことが重要である、と考えていて、そういった思想に立てば、「債権不要論」というのは非常に強力な思想になるのではないかと思います。
今回の記事が、皆様のリスク管理や暴落への備えの一助となれば嬉しいです。