制度関係 資産運用

ほぼ全ての企業型DC年金とiDeCoの併用が可能に(2022年10月~)

2021年9月18日

「貯蓄から投資へ」の号令の下に、近年、個人型確定拠出年金(iDeCo)が広く宣伝されています。iDeCoは、収入に対する控除があり、節税効果が大きいのが特徴で、将来の年金としての資産を形成するのに非常に役に立つ制度となっています。

しかし、企業型確定拠出年金(企業型DC年金)に加入している場合、iDeCoの加入には制限がかかっており、併用が難しい状況でした。今回の制度改正により、企業型DC年金に加入していても、ほぼ無条件でiDeCoに加入が認められる様になりました。また、掛金上限についても、企業型DC年金とiDeCoが合算で判断出来る様に改善されました。

この記事では、今回の制度改正の内容と、それによる影響を解説しています。また、iDeCoに入った方が良い人についても説明しています。是非、年金資金形成の参考として下さい。

こんな方におすすめ

  • iDeCoと企業型DC年金の関係について理解を深めたい方
  • 企業型DC年金でマッチング拠出をしているが、更に節税を図りたい方

確定拠出年金とは何か?

確定拠出年金(DC年金とも呼ばれる)とは、定年後の資産形成を目的としたものです。定期的に資産を拠出して、それを原資に金融資産を購入していく、といった営みにより、長期的に資産を形成していくことを目指しています。

定年後の資産形成を目的としていることから、現金化できるのは60歳以降という制限が付いている代わりに、拠出時の税金については優遇枠があり、控除される、という長所があります。受け取り時には所得税がかかるため、現役時代の収入を定年後に移動するシステムともいえます。

確定拠出年金は企業型DC年金と呼ばれる企業が主体となって拠出を行うものと、個人型DC年金(iDeCo)と呼ばれる個人が主体となって拠出を行うものがあります。企業型と個人型を併用できる場合、出来ない場合と様々なケースはありますが、税金優遇の枠の大小はあれども、所得税について優遇措置がある、という点は共通しています。

制度を複雑にしているのは、従来の確定給付型企業年金(DB年金)の有無によって税制優遇の枠が変わること、マッチング拠出と呼ばれる企業型DC年金での追加拠出が個人として可能なこと、それらの組み合わせがあること、が要因です。

これらを踏まえて、制度変更の背景について説明していきます。

制度変更の背景

現状、マッチング拠出とiDeCoの両方が税制優遇されており、非課税となっています。確定拠出年金という制度は、自ら運用する年金でもって、より豊かな老後を送れるようにする、という物です。ですから、必要以上に優遇する必要はなく、税制優遇される上限の金額が設定されています

もちろん、働き方は多様であり、年金資金の作り方も多様です。フリーランスを含めた個人事業主と一般企業に勤める会社員では、厚生年金の有無も違いますから、一律に扱うことが出来ないのは明らかです。それが掛け金の上限に反映されている、と考えることが出来ます。

これまで説明したように、「働き方」で「非課税枠の上限」が決まるのであれば、企業型DC年金に入っていても、個人型DC年金(iDeCo)に入っていても、会社員であれば、上限金額が同じでなければおかしい訳です。しかし、現状、以下の観点で見ると、条件が対等でないことに気づきます。

  1. 企業型DC年金加入者がマッチング拠出出来るか否かは企業のDC年金制度に依存する
  2. マッチング拠出が出来る場合、マッチング拠出の最大額は事業主が拠出する掛金を最大する。加えて、事業主掛金とマッチング拠出の合計額には上限月5.5万円(確定給付型年金がある場合、2.75万円)となっている。
  3. マッチング拠出が出来ない場合で企業型DC年金の規約としてiDeCoの加入が認められる場合、iDeCoの上限は月2.0万円、企業型DC年金の上限は月3.5万円である。
  4. 厚生年金保険の被保険者(=会社員)が個人型DC年金(iDeCo)を用いる場合、拠出上限は他制度の年金に加入していない場合で月2.3万円、確定給付型の年金を実施している場合で月1.2万円となっている。

上記を確認すると、同じ会社員であっても、非課税枠の大きさが異なることに気づきます。今回の制度変更は、この不平等さを解決する変更であると言えます

制度変更の概要と影響

2022年10月から、個人型確定拠出年金(DC年金)であるiDeCoの加入条件が緩和されます。これまで、マッチング拠出のある企業型DC年金加入者は、マッチング拠出していなくてもiDeCoに掛金を拠出することが出来ませんでした。つまり、証券会社にiDeCoの口座を作成することが出来ませんでした。しかし、2022年10月以降は、この条件が緩和され、マッチング拠出のある企業型DC年金加入者であっても、マッチング拠出をしないことを条件にiDeCoに掛金を拠出することが可能となります。

これにより、これまでの制度にあった不平等さを改善されました。これまでは、企業型DC年金において、税制優遇の上限金額を必ずしも使いきれる訳ではありませんでした。なぜなら、マッチング拠出の掛金上限は事業主の掛金だったからです。

例えば、会社員でマッチング拠出のある企業型DC年金に加入している人が、会社から月1万円の掛金を拠出して貰っていたとしましょう。この時、自分でも最大1万円の掛金を拠出することが出来、最大月2万円の掛金を拠出することが出来ます。非課税枠はDB年金の有無に拠りますが、2.75万円もしくは5.5万円なので、どちらにせよ非課税枠は残ってしまいます(使い切れない)。この問題は、非課税枠は残っているのに、マッチング拠出の制度上、事業主の掛金が上限となることにあります。事業主の掛金は企業によって異なるので、国の制度としては違和感がある、ということでしょう。

この問題は、iDeCoと企業型DC年金の間で拠出額の情報のやりとりが出来ていなかった所にあります。これは、iDeCoと企業型DC年金を併用する場合、企業型DC年金の上限が月3.5万円、iDeCoの上限が月2.0万円、と固定的に決まっている所にも表れています。元々企業型DC年金の上限は5.5万円でしたから、その上限を3.5万円に引き下げることで対応していた、ということでもあります。

2022年10月から行われる加入条件の緩和によって、以下の選択肢が生まれます。

  1. マッチング拠出が無い場合、iDeCoを併用して、最大2万円の拠出が出来る
  2. マッチング拠出が有る場合、企業が拠出する掛金と同額を上限としてマッチング拠出を実施出来る(確定給付年金がない場合、合計で月5.5万円を上限。ある場合は合計で月2.75万円が上限)
  3. マッチング拠出が有る場合でも企業型DC年金とは別にiDeCoの口座を作成し、マッチング拠出は利用しない代わりにiDeCoにも掛金を拠出出来る(確定給付年金がない場合、合計金額は月5.5万円、iDeCoは月2万円を上限。ある場合、それぞれ月2.75万円と月1.2万円が上限)

[ignore]https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/kyoshutsu/taishousha.html[/ignore]

この変更による影響を次に説明します。

iDeCoと企業型DC年金の掛金が連動する様になった

これまで、企業型DC年金で拠出している掛金とiDeCoで拠出している掛金は独立して設定されていました。ですから、企業型DC年金の上限を引き下げ、その枠をiDeCoに与えることで、個人がiDeCoに加入するのを許容する制度構成になっていました。これにより、事業主が多くの掛金を拠出することとiDeCoを併用可能とすることの両立が難しくなっていました。

今回の制度改正により、事業主の拠出に関して、制限が減るため、一部従業員にとっては、掛金が増え、恩恵があるでしょう。ただ、正直な所、これについては、そこまで大きな影響があるとは思えません。影響があったとしても、「iDeCoの併用を認めていて、3.5万円より多くの事業主掛金を拠出してあげたい従業員がいる企業」においてしか、メリットは生かされません。おそらく、多くの企業においては、対象外になるものと考えられます。

企業型DC年金規約の修正が不要となった

掛金連動のシステムが導入されたことにより、企業型DC年金の規約変更なしにiDeCoが利用可能となりました。具体的には、iDeCoの加入を認める文面が不要となるだけでなく、前述したとおり事業主掛金上限の引き下げも不要となります。

これにより、企業型DC年金に加入している人全てがiDeCoに加入することが出来るようになったと言えるでしょう(ただし、企業型DC年金で上限まで拠出している場合は除きます)。

優遇枠が使いやすくなった

マッチング拠出の場合、拠出出来る上限額は事業主掛金の額ですから、事業主掛金の拠出額が少ない場合、自分で拠出できる額も少なく抑えられていました。しかし、今回の制度改正で、事業主掛金が非常に少ない時でも、最低でも確定給付年金があったとしても月1.2万円、なければ月2万円は自分の収入から拠出出来ることになりました。つまり、iDeCoによる拠出の上限額より少ない額しか事業主に拠出して貰えてない場合、iDeCoも併用することで、税制優遇枠を使いやすくなった、ということです。

企業型DC年金もiDeCoも、共に所得税に対する減税がありますから、優遇枠を活用して、老後に備える、というのは良い選択肢でしょう。

iDeCo併用のデメリット

iDeCoを併用することについては、デメリットも存在します。大きなデメリットは、「iDeCo加入する必要があること」「コストが発生すること」の二つです。以下に、詳細を説明します。

まず、当たり前ですが、iDeCoに加入する必要があります。この場合、証券口座を開設し、さらにそこでiDeCoの口座を開設することになります。既に証券会社に口座を持っている人ならまだしも、新しく口座を開設するのは未経験の人にはハードルが高い、というのがデメリットの一つです。また、新規に証券会社の口座を開設するということは、管理すべき口座が増える、ということもデメリットと言えばデメリットでしょう。

また、iDeCoの加入とそこでの資産運用に当たっては、追加で経費が発生することもデメリットです。企業型DC年金でも運用にあたっての経費を支払っていますから、二重で支払うことになります(なお、この辺りは企業に依りますので、詳細は各社の担当にご確認下さい)。ちなみに、iDeCoの加入に当たっては、最低でも以下の経費が発生します。

  • 加入時に国民年金基金連合会に支払う費用:2829円
  • 国民年金基金連合会と管理機関に支払う委託費:約180円/月

金額はiDeCoを開設する証券会社によって異なる可能性があります。

ですから、月の掛け金が1万円だった場合、事実上、「購入のための手数料」に2%の費用が掛かっていると言えます。この経費をどう考えるか?というのもポイントとなるでしょう。

ただし、この掛金は収入から控除されるため、所得税も減税となります。課税される程度収入のある人の場合、税率5%程度が課されていますから、月1万円の掛金を拠出すれば、500円は確定申告により戻ってきます。日本は累進課税制度を採用していますから、高収入の人ほど戻ってくる額は大きくなります。ある程度の拠出額が用意できる場合、月の委託費については、減税分でカバー出来るでしょう。

事業者掛金が小さい人はiDeCo併用がオススメ

今回の変更により、マッチング拠出を導入した企業型DC年金加入者であっても、「1. マッチング拠出を利用するケース」と「2. マッチング拠出とiDeCoを併用するケース」に分かれてくることになります。年金は、老後の状況が不確かなだけでなく、今後の掛金についても不確かさがあるものであり、どういった戦略が最適であるか、というのは非常に難しい判断が迫られます。

しかし、事業者掛金が小さい人はiDeCoに追加で加入すべきともいえる状況です。具体的には事業者掛金が1万円を下回る人はiDeCoに入り、追加で確定拠出年金を運用することを検討しても良いのではないでしょうか?

例えば、毎月1万円、追加でiDeCoで積み立て、実質年利3%で運用出来た場合、20年後には元本240万円が328万円になる計算になります。元本240万円ということは、税率5%の所得税の人であっても、更に12万円の現金が手元に残る計算となります。

そもそも、確定拠出年金とは老後資金を蓄えるにあたり、長期投資のメリットを生かして、定期預金以上の利回りを得ることを目標としています。ですから、老後資金と断言できる資産については、なるべく確定拠出年金で運用をする方が「お得である」と言えます。

もちろん、60歳を迎えるまで現金化出来ないなど、資金用途が制限されるデメリットもありますが、老後資金を蓄えるという一点においては、優先すべきであると言えます。

もし、老後に向けた資産形成を通常の銀行預金に預けているのであれば、確定拠出年金の元本保証商品を選択する方が税金的にはオススメです。なぜなら、これまで説明したように、所得税の減税があるからです。iDeCoは株や債券といったリスク商品だけでなく、元本保証の商品もありますから、是非検討してみて下さい。

最後に

2022年10月から実施される、個人型確定拠出年金(iDeCo)の税制変更について説明しました。これまでマッチング拠出を使用してきた人でも、事業主掛金が少ない場合、思うように税制優遇が受けられませんでした。今回の改正では、より多くの人がiDeCoも併用出来る様になるだけでなく、より公平な制度になったと言えます。

この記事のポイントをまとめると以下の通りです。

ポイント

  • マッチング拠出が使用できる企業型DC年金加入者もiDeCoに加入出来る様になる
  • マッチング拠出とiDeCoの併用は出来ない
  • 事業主掛金の金額が少ない場合にiDeCoも併用することで、これまで以上の掛金が拠出出来る

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