制度関係 資産運用

東証の再編の影響を考察:株価に影響はありそうか?

2021年9月12日

2020年のコロナ禍による一時的な株安の影響により、投資を始めた方も多いでしょう。また、そういった方々を見て、最近投資を始めた方も多いでしょう。実際、私の周りにはそういった方がある程度の割合で居ます。

そういった状況だと、アクティブ運用をされている方が自分の周りでは多いので、インデックスの知識のない方もいます。しかし、2022年に予定されている東京証券取引所(東証)の再編(区分変更)に伴い、TOPIXの変更も予想されており、それにより、一部の銘柄については、株価に対し、影響を受けることが予想されます。ですから、東証の再編の背景や影響を知っておくことは、アクティブ運用をしている個人投資家にとっても有意義でしょう。

そういったことも背景として、東証再編について、調べましたので、個人的な見解も含めて、記事としました。

本記事の内容は以下の通りになっています。

本記事の内容

  • 東証の再編と新基準
  • 東証の再編に伴う影響
  • 個人投資家として確認しておきたい事項

執筆の背景

前述の通り、アクティブ投資家も影響を受けるインデックスの変更が見込まれていること、に加えて、株価やインデックスに与える影響について、興味があったことが背景です。

東証の再編(区分変更)の概要

東証の設立は1949年であり、半世紀以上もの歴史を持つ、日本最大の証券取引所です。その東証が新たに区分変更を実施する、ということで、様々な情報が出始めています。

例えば、2021年4月5日に公式ページにおいて、再編成についての背景や概要の説明がなされています。これによれば、現在の一部・二部といった形ではなく、プライム・スタンダード・グロースの三区分に変更する、ということです。

これは、

  1. 投資家に対しての利便性を向上させること
  2. 上場した企業の企業価値向上の動機づけが弱いこと
  3. 良い指数が存在しないこと

を背景としています。それらの問題解決に取り組んだ結果、各区分の位置づけを明確にするに至った、という話の様です。

東証のリリースである新市場区分への移行に向けてをざっくり読むと、新しい市場のコンセプトは、以下の通りとのことです。

  • プライム市場:グローバル企業向け
  • スタンダード市場:通常の中小企業向け
  • グロース市場:スタートアップ向け

各市場の要件は、上記のコンセプトに基づき、設定をしていることでしょう。以下では、これら新区分と影響について、詳しく見ていきます。

新区分とその基準

これまでの東証の構成は、

  • 東証一部、二部
  • マザーズ
  • JASDAQ スタンダード、グロース

となっており、かなり複雑…というより、意味が分からない状況になっていました。これをスリムにする、という意味で、今回の区分変更は非常に好感の持てる変更です。

どのような変更がされているか、東証のページからまとめてみました。東証のページは一覧形式になっていないので、概要をざっくり把握するには少し見づらいです。簡単な表ですが、差を理解するにはこれくらいの方が分かりやすいでしょう。

表には、以前の東証の上場基準を書きました。現在は既にプライム基準に修正されており、確認することは出来ない様なので、あくまでも参考データということで見て下さい。

さて、以前の東証1部の条件と新区分のプライムを比較してみましょう。注目したい変更点は以下の通りです。

  • 株主数
  • 流通株式の時価総額

注目点は、流通株式の時価総額の増額でしょう。流通株式の比率こそ変化の無いものの、流通株式の時価総額が増額されていますから、時価総額の小さ目な企業にとっては、厳しい条件でしょう。株価を上げるのはかなり難しいことから、こういった時価総額の小さ目の企業がプライムに残るためには、流通株式の比率を高める必要がある、ということになります。また、時価総額が大きな企業にとっても、持ち合いなどにより、流通株式の時価総額が小さいケースもありますから、これから様々な施策が打たれていくことが想定できます。

こういった影響を詳しく見て行くことにします。

市場区分見直しの概要, 東証

区分変更による影響

東証は2021年7月9日に、市場再編後の3市場の上場基準適合判断を各企業に通知しています。様々なニュースが出ていますが、東証一部に上場する2191社のうち、664社が最上位であるプライム市場の基準を満たしていないとのことです。

この影響として、考えられることは、3点あります。

  1. プライム基準達成に向けた売り
  2. 新TOPIXからの選考漏れに伴う売り
  3. 人材採用に対する中長期的な影響

それぞれについて、以下で解説します。

プライム基準達成に向けた売り

プライムの基準達成の内、比較的簡単に達成することが可能な項目があります。それが流通株式に関する制限です。

例えば、プライムの上場基準においては、流通株式時価総額が100億円以上であることが求められています。これは即ち、「大株主や他の上場企業が保有する株式を除いた分」が100億円以上であることを求めています。現在の流通株式時価総額が80億円の企業の場合、20億円分の株式を市場に放出する様、機関投資家や取引銀行、親会社などの上場企業に対し、要請をする可能性があります。その場合、それなりの額の株式が市場に放出され、株価が一時的に安くなる可能性があります。実際に、トヨタ系列で株式が放出された事例があります

当社主要株主の株式売却について、トヨタ紡織

また、基準についても疑問がある所です。要求される流通株式の比率が35%である点は以前と変わりません。しかし、従来と同じ基準で判断されるのか?という点については、東証次第と言えます。最近の基準で判断され、以前より厳しい判断がされているかもしれません。

個人的見解になりますが、日本の株式市場の基準は、欧米の基準よりこれまで甘い部分があったので、以前の基準より厳しくみられることになると考えています。多数の東証1部企業がプライムに残れない理由の一端になっているという見立てです。

この様に、流通株式の比率が不足する場合、親しい保有者に対し、手放すよう依頼をする可能性があります。特に、トヨタ系列の事例の様に、子会社の株を手放すことが考えられます。その場合、一時的に該当銘柄の株が安くなることも考えられるでしょう。

注意が必要なのは、必ずしも、「プライムに入るため」という目標として、手放すとは限らない点です。今後のことも考え、随時売却を進める企業も出てくるでしょう。どのような形で手放すことになるか、というのは、それこそ経営者次第であると言えます。

新TOPIXからの選考漏れに伴う売り

TOPIXの対象となっている企業にも影響があります。現行のTOPIXは東証一部に上場している銘柄を対象に計算しています。東証一部がなくなる、ということは、TOPIXの対象銘柄も変更になると考えられます。

とはいえ、TOPIXはプライム指数にはならず、指数の連続性を重視するというニュースもあり、急激な銘柄変更は無さそうな状況です。実際、東証のリリースによれば、

2022年4月1日の構成銘柄について新市場区分施行後の同年4月4日以降も選択市場に関わらず継続採用します。

ただし、流通株式時価総額100億円未満の銘柄について、「段階的ウエイト低減銘柄」とし、2022年10月末から2025年1月末まで、四半期ごと10段階で構成比率を低減します。

参考:株価指数の見直し

とのことですから、TOPIXの連続性は担保されるような銘柄入れ換えを想定している様です。

実際、現在のTOPIXが2000銘柄以上で構成されており、その中の小型株600株を段階的に入れ替える、というケースを考えると、インデックス自体の急激な変化や不連続性の発生はなさそうです。

これを考えると、流通時価総額100億円以下の企業はプライムの基準を満たしていないわけですが、同時に新TOPIXの基準も満たさないため、将来的にはTOPIX銘柄から外れ、結果としてインデックスファンドから売られるでしょう。タイミングについては、区分変更後の10回の変更機会で実施される、ということになります。これは場合によっては、買いのタイミングになる可能性があります。

逆に、外れない銘柄については、逆に買いが発生し、一時的に価格が上昇する可能性もありました。現在のTOPIXは時価総額に基づく加重平均でインデックスを作成していますが、ファンドの運用額は一定のため、外れる銘柄が多い場合、残留している企業の株式を買い増す可能性もあったからです。しかし、複数に分けて変更することから、残留銘柄の売買数は限られた物になると考えます。TOPIXの連続性が維持できる様、入れ替えの時価総額がほぼ同等になる入れ替えスケジュールを組んでくるはずなので、残留銘柄の売買比率は通常のリバランスとさほど変わらないと予想しています。

人材採用に対する中長期的な影響

短期的な影響ではありませんが、企業活動という観点について、人材採用に関して影響を受ける可能性があります。

この背景としては、日本の特異的な就職状況にあります。日本においては、転職が容易な一部の分野を除き、大企業信仰が未だ根強いのが日本の就職市場です。この様な就職市場においては、プライム市場の企業とスタンダード市場の企業では、プライム市場の企業に志望が集中する傾向が出るでしょう。

つまり、現在、東証一部上場企業となっている企業が、スタンダード市場に「落ちた」場合、これまでと同様の人材採用が不可能になる可能性もある、ということです。現在、世界的に流行しているコロナの影響があり、多少不景気な状況でもありますが、将来を見据えて、これからも人材投資を進める企業は多くなることが推察されます。この時に、「市場のダウングレード」は企業にとっては中長期的なリスクになると推察されます。

これは企業の経営方針に影響を与える内容ですから、企業分析の際に参考としても良いでしょう。

個人投資家としての確認事項

長期投資者向け

現在東証一部に上場している銘柄について、まずは「保有を継続する」か「売却する」か「購入する」かを検討する必要があります。保有を継続する銘柄であれば、プライム落ちか否かは関係ありません。継続して保有しましょう。売り買いを行う場合、TOPIXの組み替え方をにらみつつ、以下の考え方も参考にしてみて下さい。

売却をする場合、その銘柄がTOPIX落ちか否かを確認した方が良いでしょう。銘柄の入れ替えは順次行われるため、銘柄リストは随時更新という形になりますが、リストが出た瞬間に値段が変わる可能性もありますから、出来れば現在の財務状況でどちらかを自分で判断出来ると良いです。

ただ、少なくても浮動時価総額が100億円を下回る企業については、TOPIX落ちの可能性が高くなってきます。TOPIX落ちの場合、入れ替えタイミングで値段が落ちることになる可能性もありますから、割安で購入できる可能性が出てきます。逆にTOPIX残留銘柄であれば、売却は市場再編後でも構わないでしょう。TOPIXの定義式変更の直後だと、インデックスファンドの買いが入るため、高値で売れる可能性もあります

購入については、売却と逆になります。TOPIX新規組み入れ銘柄は組み込まれ後に割高になるでしょうから、事前に購入しておく案もあります。また、TOPIX落ち銘柄は落ちた後であれば、割安で購入できる可能性があるでしょう。

売買をせず、リスクから離れたい、というのであれば、TOPIX組み入れの基準値付近の銘柄については、手放してしまう、というのもありです。この辺りは、個別銘柄投資の基本を踏まえながら、リスクと各企業の本質的な評価を考えていけば良いでしょう。

最終的にはTOPIXの組み替え方にも依るので、「段階的ウエイト低減」がどういった措置を意味するのかも含め、良く調べながら、売買をすることが大切でしょう。

短期投資者向け

短期取引で利益を狙いたい場合、再編時にインデックスファンドからの売り買いを想定し、リバレッジをかけて、キャピタルゲインを狙う選択肢もあります。

こういった前情報がある場合、勝率は高めることが出来るので、信用取引などを活用しても良いでしょう。なぜ勝率を高めることが出来るのかといえば、TOPIXなどのインデックスの変更タイミングは告知されるし、インデックスファンドは変更日に銘柄を組み替えることが投資家との約束で義務付けられているので、高い確率で、それに関連した取引がなされるであろうからです。ただし、これまで信用取引をしたことのない人は、本番で初めて信用取引をする様なことはリスクが高いのでお勧めしません。また、そういった取引を行う場合は、インデックスの入れ替えのタイミングの銘柄の挙動について、過去のデータを参照したりして、研究を行うことをお勧めします。

特に、信用取引にせよ、新しい方法を用いる際は可能な限り、事前練習などでしっかり体験しておくことが重要です。使ってみることで、実際の問題点であったり、考え方であったりが身に付く点もあるからです。信用取引はリバレッジをかける取引なので、始めはリバレッジを抑えて体験することが必要でしょう。

もちろん、実際のインデックスの組み換え方法など、情報を確認することを怠らないでください。実際の組み換えがどうなるか?というのは、公表されるまで分かりませんから。

まとめ

今回は東証の区分変更に関して、簡単にまとめてみました。こういったシステムの変更は、損失が出る可能性がある一方で、利益が出るチャンスでもあるので、事前に準備をしておくと良いでしょう。

証券取引所の大掛かりな変更は、非常にレアなイベントであり、経験をすることは少ないですが、それが故に想定外の影響を受けることもあります。そういった「レアイベント」発生の前に、どのような戦略で自分の株を扱うか、を考えておくことで、状況の変化にも対応しやすくなります。

本記事が自分なりの投資スタイルやリスク管理を考えるヒントになれば幸いです。

-制度関係, 資産運用
-,

© 2022 もぐもぐアカデミー