資産運用 運用例

【運用例】年金運用をしているGPIFのポートフォリオと運用の概要

2021年5月7日

あなたはGPIFという団体をご存じでしょうか?年金の運用をしている独立行政法人で、我々の年金を運用している、超重要組織です。

このGPIFですが、運用内容が教科書的だとも言われており、投資の参考になるとも言われています。そこで、GPIFのポートフォリオや運用の概要について調べてみました。是非、あなたの投資スキルの向上に、この記事を参考にして下さい。

それでは、説明していきます。

こんな方におすすめ

  • GPIFのポートフォリオについて理解を深めたい方
  • GPIFの運用を見て、自分の資産運用の参考としたい方

GPIFとはどんな組織か?

GPIFは、日本語名「年金積立金管理運用独立行政法人」といって、その名の通り、年金の運用を実施している独立行政法人です。2021年の段階で、既に運用金額が150兆円に及んでおり、機関投資家であることは疑いのない組織です。

投資原則を意訳し、コンパクトにまとめると、概ね以下の様になります。

  1. 長期的な観点から、必要な利回りを最低限のリスクで確保する。
  2. 長期間投資を生かして、安定的かつ効率的に収益を確保し、年金給付に必要な流動性を確保する。
  3. 基本ポートフォリオを作成し、資産全体・各資産クラス・各運用受託機関等の各段階でリスク管理を行う。また、パッシブ運用とアクティブ運用を併用して、収益を生み出す投資機会の発掘に努める。
  4. 被保険者の利益のため、長期的な収益を確保する観点から、財務的な要素だけでなく、ESGを考慮した投資を推進する。
  5. 長期的な投資収益の拡大を図る観点から、投資先や市場の長期にわたる持続的成長を促す様々な活動を推進する。

[引用元]GPIFの投資原則・行動規範

以下では、2019年度の業務概況書を見ながら、GPIFの運用状況について確認して行きましょう。

参考:GPIFの管理・運用状況

GPIFの運用方法

ポートフォリオの基本

GPIFのポートフォリオは投資原則記載の通り、リスク管理の観点から、「資産全体」「各資産クラス」それぞれに対してポートフォリオ設定がされています。

リスク管理については、日本内外の株式・債権に分散して投資を実施しています。このポートフォリオは基本となる数値と、許容範囲の二つで設定されています。これを基本ポートフォリオと呼んでいます。

2020年度以降の基本ポートフォリオは以下の通りになっています。

  • 債券全体の割合:50%±11%
    • 国内債券:25%±7%
    • 外国債券:25%±6%
  • 株式全体の割合:50%±11%
    • 国内株式:25%±8%
    • 外国株式:25%±7%

なお、オルタナティブ資産については、リスクリターン特性に応じて、上記の4種類に分類し、資産全体の5%を上限として組み入れることを基本としているとのことです。ここでいう、オルタナティブ資産はインフラ、プライベート・エクイティ(未公開株)、不動産の三つと定義されています。

運用コスト

運用といえば、コストも気になる所です。GPIFは2019年度に319億円ほどの管理運営委託手数料を支払っています。しかし、桁外れに大きい総資産比で考えると、運用のコストは「0.02%」に過ぎません。

この手数料率は、優良海外ETFの委託コストとほぼ同等の水準です。やはり、運用規模が大きい方が、コストの観点では有利なのでしょう。実際、GPIFの手数料の推移を確認すると、残高が少ない2001年度は0.11%で、残高が増えるにつれて手数料が下がっていっています。

目標利回り

GPIFにおいて、実質的な運用利回りは、「表面的な運用利回りー名目賃金上昇率」と定義されています。これは、「公的年金の年金給付費は概ね賃金上昇率に連動する」仕組みになっているため、このような定義をしています。これにより、年金財政に対して、プラスとなる様な運用を目指しています。

そのうえで、長期的な実質運用利回りの目標を年率1.7%と設定しています。実際には、財政について、いくつかのケースを想定し、その中で最も高い要求運用利回りである、1.7%を目標として設定している、ということです。

アクティブ運用とパッシブ運用

GPIFとしては、アクティブ運用とパッシブ運用を織り交ぜて、市場平均を確保しながら、より高い利回りの実現に努めているようです。2019年度末の時価総額を確認すると、株式については、パッシブ運用:アクティブ運用=10:1、債券については3:1くらい時価総額になっています。

アクティブ運用としては、一般的なバリュー型投資の運用方法だけでなく、数か月~数年程度が投資期間の中心となるESGアクティブ運用もあると記載があります。

パッシブ運用としては、様々なインデックスが使用されていますが、外国株式としては基本的にMSCI系のインデックスが使用されており、国内株式としてはTOPIXが主に採用されています。債権については、WGBI系などの指標が採用されています。なお、ESGパッシブ運用もあり、こちらは基本的に保有を継続する運用になる、と記載があります。

これらについては、資料中の「運用受託機関等別運用資産額」を参照すると全てのベンチマーク(=インデックス@パッシブ運用)の記載があるので、詳細は資料を参照して下さい。

GPIFの累積の運用利回り

2019年度末の段階で、累積運用利回りは実質年率2.39%となっています。上記では、目標を1.7%と設定していると書きました。ですから、その目標を上回っている、という事になります。

自分の運用利回りと比較しようとすると、表面利回りで考えたくなります。そこで、ざっくり表面利回りを計算してみましょう。そのためには、名目賃金の変化を確認する必要があります。そのためには、厚生労働省の提示している「毎月勤労統計調査」を参考にするのが良いです。2014年~2017年は0.5%前後の賃金上昇、2018年は1.4%前後の賃金上昇、2019年,2020年は-1%程度の賃金減少になっています。2013年の賃金を1としたとき、2019年は1.014程になるので、1/7乗根を求めると、0.2%程になります。

以上に基づくと、ざっくり0.2%程を足した者を表面運用利回りと考えて良いでしょう。そう考えると、2.6%程が実際の表面利回りだと推察しています。

参考:毎月勤労統計調査(全国調査・地方調査):結果の概要

GPIFの運用:個人投資家の参考になる箇所

オルタナティブ資産の組み込みについて

ポートフォリオについては一般の投資家も参考に出来ることがあります。それは、オルタナティブ資産を資産に組み入れることについては、一定の価値がある、ということです。

報告書でも以下の通り、述べられています。

オルタナティブ資産は上場株式、債券とは異なるリスク・リターン特性を有しており、株式市場等の価格変動の影響を受けにくい。そのため、運用の効率性の向上と安定に寄与する効果が期待できる。流動性が低いが、利回りが高いと言われており、長期投資家としては組み入れることで、超過プレミアムを獲得することを目指す。

つまり、長期投資を行うのであれば、GPIFと同様に、数パーセントのオルタナティブ資産を組み込むことは、流動性と引き換えに、利回りを改善する可能性がある、ということです。

なお、一般に未公開株は詐欺の温床とも言われる茨の道なので、購入するとすれば不動産ファンドもしくはインフラファンドとなるでしょう。不動産といえば、J-REITといった形で日本国内のファンドもありますが、インフラファンドは太陽光発電がメインとなってくるのが実情です。

GPIFの投資対象としては、金などは含まれていない、ということですから、長期投資として、金は不確実性がある、というそういう判断でしょう。金をポートフォリオに組み入れる際の参考にすることが出来そうです。

損失について

長期的には目標利回りを達成しているGPIFですが、流石にコロナ時には損失を抱えています。例えば、2019年度の運用利回りについては、5.2%の損失となっています。これは当然の話で、この時期は丁度コロナの時期であり、株式が基本的には赤字でしたから、資産の半分ほどを株式で保有しているGPIFは損失が出て当然です。

それではこの損失が、どういった素性なのか、改めて確認をしてきましょう。ちなみに、GPIFとしては、かなり色々と要因分析をしています。ただ、外から見ている人には、実際の運用状況も分かりませんし、あまり細かく見ていくことは出来ないと思っています。ですから、「こういった運用は参考になる」といった部分を拾っていきましょう。

日本株式について、TOPIXを比較してみると、年度頭と年度末を比較すると、20%程度株価は下落している局面でした。2020年12月末の段階で、株式は外国株式27.6%と国内株式25.0%を抱えていましたから、株式での損失は10%程だったことが予想出来ます。確かに、第4四半期における、損失は10.7%程であり、その他資産でほとんど利回りは取れていない様でしたから、概ね予想通りでしょう。

それでは、通年で5.2%しか赤字が出ていない、というのはどういう事かというと、第1~3四半期で利益が出ているからです。その利益は、株式で稼ぎ出しています。そのために、適切なリバランスを実施していると考えるのが妥当でしょう。ただ、これについては詳しく述べられていません。

ストレステストの評価

ストレスシナリオを設定し、ストレステストを行っているのも参考になる点といえるでしょう。ストレスシナリオとしては、「リーマンショック」「ITバブル崩壊」を想定していますが、この点は非常にすっきりとします。リーマンショックは割とすぐに回復した印象がありますが、ITバブルは長引いた記憶がありますから、「違った性質のプロファイル」となりそうです。なお、GPIFのポートフォリオ的には、どちらのシナリオにおいても、数年後には期待水準にまで利回りが回復する、と結論づけています。

本来であれば個人投資家もこういった「中長期のリスク分析」に基づき、ある程度のリスク管理をするのが正しいと言えます。しかし、こういったシミュレーションは中々難しいでしょう。それに、個人投資家であれば、ここまでシミュレーションする必要があるか、というのは疑問でもあります。資産運用を業務で行っている場合、説明責任が問われますから、定量的な評価が必要となりますが、個人投資家の場合、自分が納得できれば良いため、そこまでの作業は不必要であると考えられます。あくまでも適正リスクに抑えることが重要なので、自らの方法でリスク管理をする、それで十分ともいえます。

何にせよ、最悪ケースを考えて、リスクを把握することが大切だということは、個人投資家も理解しておくべきことです。

GPIFの運用:個人投資家の参考にならない箇所

多数の参考になる情報があった一方で、参考にならないであろうこともありました。以下の通り、個人投資家にとって、必ずしも参考にならないであろうことをまとめました。

リスク管理手段としてのESG

GPIFとしては、「長期的な観点から安全かつ効率的な運用が必要」として、ESG投資を実施している、という事になっています(ESG:環境・社会・ガバナンスの3つ)。GPIFとしては、気候変動リスクなどの長期リスクの計測・分析が可能な運用解析ツールを用いながら、長期のリスク管理を行いつつ、運用をする、ということです。

しかし、この投資手法は「個人投資家にとって参考にならない可能性が高い」と感じます。個人投資家にとって重要な部分はガバナンスだけでしょう。ガバナンスとは管理体制ですから、流石にこれはしっかりしていないと今後の発展は難しいでしょう。

しかし、他の二点については、国が出資元の運用期間であるが故の束縛であると考えた方がしっくり来ます。ESGは社会的な要請が大きく、個人の運用では入れなくてもよい、と感じます。また、個人投資家の投資期間では、そこまで大きなインパクトがあるとは個人的には思えません。

ですから、ESG投資の部分については、別の切り口で評価していけば良いと思います(勿論、ESGが大切と同意出来れば、参考にして良い)。

予定積立額の低下

年金の場合、実際の積立額が予定積立金額を下回るリスクを検討する必要があるそうで、GPIFでは確率的なシミュレーションまで行っているとのことです。シミュレーション手法は書かれていませんが、十中八九、モンテカルロシミュレーションでしょう。コンピュータ内部でサイコロを振って、シミュレーションするのを何回も実施する方法です。

年金としては、下振れリスクが怖いから、「下振れリスクを一定として」その上で上振れの可能性を最大化し、リスクを管理する、という形だと推察できます。モンテカルロシミュレーションを通じて、ポートフォリオを改善していく、これは非常に重要な営みだろうと思います。

ただ、この検証は個人投資家には不要ではないでしょうか?あくまで年金という目的上、必要な作業であり、個人投資家には必要な作業とは個人的には考えられません。モンテカルロシミュレーションは相応に時間がかかりますし、そもそもGPIFの場合、専用のソフトを導入しているでしょうから、そういった点でも個人で実施するのはハードルが高いでしょう。

株主優待について

運用の本質ではないのですが、株主優待については、ファンドとしては取り扱いに悩むそうです。基本的には現金に変更し、利回りを改善することを基本とする、としています。

しかしながら、食品などの現金化が困難なものもあるわけで、そういったものをどう活用するか?というのは投資する側としては非常に大きな問題となってきます。この点について、GPIFとしては、食品・家庭用品については、日本赤十字社や東京都社会福祉協議会、神奈川県共同募金会などを通じて、福祉施設などに寄付する、等の対応をしているそうです。

この辺り、流石国の機関だと感じます。元が税金で運用されている物ですから、福祉に使われるのは、非常に望ましい方法だと思います。

おわりに

今回は年金を運用する、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のポートフォリオや運用方針について紹介しました。GPIFはリスクを抑えた運用をしており、個人投資家にとっても参考となることも多いと感じました。

ポイントとなるのは以下の通りでした。

ポイント

  • 長期投資を前提に国際分散投資を実施することでリスクを抑えた運用を目指している。
  • ポートフォリオは国内株式25%、国内債券35%、外国株式25%、外国債券15%を基準に、各資産クラスに対して数%の許容度を設けている(2020年度現在)。
  • 年金は取り崩しを前提とするため、流動性に対して注意を払っており、ポートフォリオに反映されている。
  • 違う動きをすることから、オルタネイティブ資産として、インフラ・不動産・未公開株の三つに投資をしている。

今回の記事が、あなたの運用の参考になれば嬉しいです。

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