投資信託は非常に多くの商品が販売されています。その商品の選択に当たっては、目論見書を読んで、どんな運用がなされるかを知る必要があります。しかし、目論見書は初めて読む方には難しく、時間がかかるものです。ネット証券では、証券会社の営業から説明を受けることも出来ないので、敷居を高くしています。しかし、一度、読み方を学んでしまえば、誰でも簡単に読める様になります。
そこで、この記事では、eMAXIS Slimを具体例に目論見書の読み方を解説していきます。その中で、目論見書の勘所を説明していきます。これにより、今後は素早く目論見書を確認することが出来るようになります。
それでは、始めていきましょう。
こんな方におすすめ
- 投資信託の目論見書の読み方が分からない方
- 投資信託の目論見書の勘所を知りたい方
- ネット証券での投資信託購入を考えている方
読み合わせる投資信託の概要
サンプルとする投資信託は、非常に支持されている投資信託の一つで三菱UFJ国際投信の提供しているeMAXIS slimシリーズ、その中でも「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」をターゲットとしましょう。この投資信託は名前を見ても分かるように、投資対象は全世界株式で、パッシブ運用のインデックス投資を実施する投資信託です。
この「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」をなぜ選んだかというと、「投信ブロガーが選ぶ!Fund of the Year 2020」で見事1位を獲得した優良投信だからです。せっかく読み合わせをしていくのですから、優良な投資信託を読んで、「優良な投資信託の条件」を体験して下さい。
目論見書と運用報告書について
まずは、目論見書をダウンロードしましょう。今回の読み合わせで使用した物とそのPDFへの直接リンクは以下の通りです。
- 交付目論見書(2021.1.27)[直接リンク]
交付目論見書は、ざっくりと説明するとすれば、「ファンドとの契約概要」と「投資信託それ自体の設計」が記載された文書です。販売に当たって、必ず投資家に確認を求める資料であり、投資信託を購入する人は必ず確認する必要がある書類です。
読み解く、交付目論見書
表紙で概要を確認
表紙をまずは確認しましょう。
1は投資信託の商品名です。「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」ということが分かります。
2は投資信託の概要です。
「商品分類」から「(日本国)内外の株式」に投資がされる「インデックス型」ファンドであることが確認できます。また、「対象インデックス」の部分に「MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス(配当込み、円換算ベース)」と記載があります。ですから、インデックスとしては、MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックスに従う、ということが確認できます。
3は委託会社ですね。実際にファンドの運用の指図を行う会社を明記してあります。
ファンドの特徴で投資の特徴を知る
次にファンドの特徴の所に興味深い図がありますので、見ていきましょう。
確認してみると、先進国が87.6%、新興国が残りの12.4%で殆ど先進国で構成されていることが分かります。
まず、新興国について詳しく見ていきましょう。MSCIインデックスにおいては、「韓国」「台湾」「中国」が新興国として扱われているようです。新興国と言いながらそれなりに規模が大きい国家で大半を占めています。
次に先進国について確認すると、圧倒的なアメリカの存在感ですね。圧巻の58.3%!流石の超大国でしょう。やっぱり、世界株式のインデックスは時価総額加重で作るとアメリカが大多数になりますね…。
この投資先を知る、ということの意味は、「自分の別の資産との被りを確認する」という意味が大きいです。投資先がアメリカに偏りすぎているとか、もう少し新興国の割合を落としたい、とか、そういった投資の判断の参考に利用するのが良いでしょう。
投資リスクの確認
投資で最も大切な「リスク」の確認をしていきましょう。
このリスクは殆どの投資信託で「ほぼ同内容」が書いてあるといっても過言ではないのですが、必ず確認しておきましょう。この中で盲点といえるのは、「カントリーリスク」でしょう。日本のようなしっかりとした法制度の国家に住んでいると忘れがちですが、新興国のような法制度が未発達な国においては、投資のための法的基盤が整っていないため、そういったリスクがあります。投資対象としては、新興国は13.1%しか含まれておらず、その中の最大の国家が中国の5.2%ですから、新興国中の一国がダメになったとしても5%程度しか価値が棄損しない、ということですね。
次に、投資リスクの過去の実績をデータで確認していきましょう。
左側がファンドの基準価格のグラフと騰落率です。まず、グラフの形状に着目しましょう。株式を対象としているだけあって、かなり値動きが激しいことが分かります。ですが、基準価格の変化を示す騰落率のグラフを確認すると、値上がりの方が値下がりに比べて多く発生していることが確認できます。直感的には、「このファンドは殆ど右肩上がりで成長してきた」ということが分かります。ただし、ファンドの設定が最近であり、実際の運用履歴は短いことに注意して下さい。
値動きの範囲を確認できるのが、右側のグラフです。このファンドのデータが載っていますが、この期間において、騰落率は-20.0%~32.8%の間に収まっていることが確認できます。また、平均的な騰落率は5.4%のプラスの数値になっていますから、先ほどの直感は概ね正しいことが分かります。
また、この値動きの幅は株式の中では割と一般的なことが、その隣に乗っている「日本株」「先進国株」「新興国株」と比較すると、同クラスだということが分かります。また、先進国株式が6.5%の騰落率でありながら、このファンドの騰落率が5.1%である、ということで、新興国株式の3.7%が平均的には足を引っ張っていることが分かります。ここで、新興国株式を外した商品を購入する方向に行っても良いですし、新興国株式の可能性(最大37.2%)を加味しても良いわけです。
そして、この値動きは国債と比較すると圧倒的に大きいことが更に右のグラフと比較するとわかります。一方で、平均的な騰落率で見ると、国債より圧倒的に良い数値になります。これも商品選択の参考になります。
自分のニーズや目的とリスクがマッチしているかが全てなので、リスクは数値でも確認しておきましょう。
運用実績の確認
リスクも確認して、平均的な騰落率と値動きについて分かったところで、続く運用実績を確認していきましょう。
まず確認したいのは、分配金の部分です。後程触れますが、分配金は出さない方針なんだろうな、といった感覚が確認できますね。また、基準価格も純資産も基本的には増加傾向であることが確認できます。
次に確認すべきは、組入銘柄の一覧です。組入銘柄は日々変化のある項目ですが、まずは目論見書の段階でどこに投資をしているのか?を確認しておくことは、投資信託の実態を把握するためにも重要です。今回の投資信託の場合、組み込み銘柄の1位はAppleで3.8%の組み入れ、ということなので、どんなに組み込まれていても3.5%が上限、ということです。アメリカの銘柄が続き、やっと7位でTENCENT(香港)が来て組入比率が0.8%、となっています。重要なのは、上位10位の企業が倒産しても、元本に与える影響は最大でも3.5%程度であり、それ以外の企業は0.8%以下の影響しかない、ということです。実際、もっと組入比率の小さい企業は多数あるでしょうから、かなりの分散投資がされている、ということが分かります。
次に年間収益率を見てみましょう。これは、騰落率を年間に直した物です。
確認すれば分かる通り、概ね、上記に示した騰落率である「-20.1%~32.6%」の範囲に収まっています。ですが、同じ評価基準を使うと、2013年に48%の収益が見える、と書いてあります。ここについては要注意です。概ね収まると予想していた範囲に収まっていないので、この時の状況については、確認した方が良いです。
確認してみると、2013年は米国株式市場が急騰した、ということで、それが想定外であった、ということですね。この想定外の範囲で利益が出た場合、逆ブレする可能性もあるので、必ず確認する癖をつけることをお勧めしています。自分も確認する様にしています。不自然な動き、納得できない動き、であれば、あまりその投資信託を買うことはおすすめしません。
手続き・手数料などの確認
手続き・手数料などの項目からその他の項目について解説していきましょう。
信託期間は有期であることがあるので、確認が必要です。継続的に投資していきたい投資信託であれば、無期限の物を選ぶのが良いでしょう。また、無期限であっても繰上償還の条件に合致した場合、償還される可能性がありますから、繰上償還の条件も確認すると良いでしょう。このうち、受益権の口数については、ある程度ファンドの規模があれば問題ないでしょう。一方、「対象インデックスが改廃された時」というのは、投資家からはどうしようもないリスクです。それでも一応、把握しておきましょう。
決算日については、その前後で報告書が出るでしょうから、その参考にしましょう。
収益分配については、分配金について細かい記載がありますね。この「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」においては、「分配金は基本的には出さない」とここでは明記していますね。配当金再投資による、効率の良い運用を重要視する、ということです。もし、配当金目的の投資であれば適さない、ということですから、自分の目的を確認しましょう。
信託金の限度額とは、「ファンドの規模の限度額」を意味しています。元本を基に計算される信託額の合計をファンドごとに制限している、ということです。金額が大きすぎてもファンド運営を阻害する、ということでしょう。無制限としているファンドもある様なので、継続的に投資したいのであれば、気にしても良いでしょう。
ファンドの費用の確認
さて、それでは、今回の最も大きな重要ポイントである、ファンドの費用を確認していきましょう。
まず筆頭は、「信託財産留保額」ですね。売りの時にかかる経費で、これは無料ということです。これは、一度しかかからない費用ではあるので、利益との比較で判断すれば良い項目です。
次に「信託報酬」です。これは保有日数に応じてかかる費用で、年毎の費用として掲げられています。要は、ファンドを運用する会社、販売する会社、資産を管理する会社の取り分、ということです。このファンドでは、純資産総額に応じて費用が変化しますが、資産規模が増えるほど運営が効率化するため、信託報酬が安くなります。このファンドでは、最大でも0.1144%の信託報酬である、ということです。ちなみに、消費税もかかるのでそこだけご注意下さい。この信託報酬は文句の付け所がない、格安の費用です。
信託報酬の目安としては、インデックスファンドであれば0.5%以下、アクティブファンドであれば1%以下の信託報酬を一つの判断基準にすると良いでしょう。また、ここには記載がありませんが、「販売手数料」が必要な投資信託もあります。ただし、個人的にはおすすめはしません。
税金について
税金についても記載があるので、一応確認しましょう。
ざっくり20%程度の所得税がかかることが確認出来ます。
おわりに
今回は、投資家に人気のある「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」の目論見書を読んでみました。目論見書は投資家が読むべき書類の一つですが、投資初心者には敷居が高いかもしれない、と思い、重要な部分を簡単に解説しました。
目論見書は一度読み方を知ってしまえば、次回以降は読む時間もそれほどかからなくなるので、是非、積極的に読んで貰えたらと思います。
この記事のポイントは以下の通りでした。
ポイント
- 投資信託の目論見書には運用方針が記載されている必読書類
- リスクについても数値で記載あり
- 信託報酬は運用手数料でインデックス・ファンドなら0.5%以下、アクティブ・ファンドなら1%が一つの基準
投資は自己責任で行う物ですから、しっかりと勉強していきましょう。