この記事はこんな方におすすめです
- 資産運用の税制についてご存じない方
- 積立NISAとNISAをどちらを選ぶか迷っている方
- iDeCoのメリットがいまいち良く分かっていない方
最近、資産運用向けの税制優遇が熱い!
最近、日本の資産運用向けの税制が非常に優遇されています。これまで、国民の資産の大多数が「現金」と言われている日本で、こんなに税制優遇が受けられるとは…。具体的には、年間40万円20年間無税とか、運用中非課税+所得税から控除とか、そういった減税措置が受けられます。日本は資産運用にかかる税金は概ね20%に設定されているので、それだけ減税が受けられるのは熱い話です。
最も、背景としては、
- 少子高齢化が進み、年金財政が厳しくなることが予想される中、国民の自助努力を期待すること
- 同様に経済が落ち込む中、経済を回すために、資金を箪笥や銀行から市場に回したいこと
などが挙げられますので、必ずしも良い背景だけではないのですけども。
ただ、せっかくある制度なのだから、使わなきゃ勿体無いです。
とはいえ、どれを使えば良いの?
どれを使うか、というのは非常に重要な問題です。贅潤に資金がある人は可能な限り全部やれば良いのですが、そういった方は少ないですからね。自分もそうです。
以下に各制度の大まかな比較表を用意しました。
iDeCo (個人型確定拠出年金) | NISA (2023年まで) | 積立NISA (現状2037年まで) | |
制度趣旨 | 老後資金形成 | 資産形成 | 資産形成 |
投資上限額 | 職業・加入している年金制度により異なる | 年120万円 | 年40万円 |
減税期間 | 原則60歳、最長70歳まで | 最長5年 | 最長20年 |
減税期間 終了後の措置 | ・退職金 ・年金として受け取り | ・売却 ・継続保有 ・ロールオーバー | ・売却 ・継続保有 |
減税対象 | 投資額相当の所得税を控除 ただし、受け取り時に課税。 | ・譲渡益 ・配当 | ・譲渡益 ・配当 |
運用商品 | iDeCo提供者が選択した35商品から選択 | 株、投資信託などから選択 | 基準を満たす投資信託 |
補足事項 | 積立NISAと併用不可 | NISAと併用不可 |
以下では、細かく見ていきます。
iDeCo
iDeCoは個人型確定拠出年金(個人型DC年金)のことです。この制度は現行(2021年現在)の物だと、加入出来ない人が居ます。
加入できない条件としては、
- 「企業型に加入していて、マッチング拠出制度がある」
- 「企業型に加入しているが、企業型にiDeCoに関する運用規定がない」
の二つのケースです。この制限については、2022年に緩和される、という話もあります。
さて、iDeCoのコンセプトは名前から察せる様に「年金運用を自分でやる」ということです。そのため、月々一定額以上を拠出して、資産運用をする、という形になります。基本的には月5000円以上であり、それ以下になる場合には運用指示者となることで運用は出来ますが、口座管理費用が掛かってきます。ですから20歳から始めたなら60歳までの40年間、合計240万円を最低でも運用しなければなりません。
もっとも、老後資金が2000万円不足する(=貯蓄しなければならない)、と言っている現状で、240万円を運用するのはそこまで大きなリスクではありません(12%程なので)。また、NISAであれば、所得税で課税されたあとの収入を投資に回すことになるので、効率がよろしくありません。受け取り時に税金がかかると言っても、収入が低くなる老後に受け取るというのは、税率が安くなりますので、悪くない話かと思います。そして、一時金は退職金としても受け取れるので、その場合は退職金控除を受けることが出来ます。このように受け取り時の税金はなんだかんだ優遇されているのがiDeCoという制度です。
デメリットとしては、退職金ですから、資金拘束が生じる点です。この点は考え方次第でしょう。どうせ老後にむけた資金を運用するのであれば、減税などの優遇措置を受けたいでしょうから、年金目的の運用という方は是非iDeCoをするべきでしょう。また、受け取り時の税制については若干の勉強が必要で、最適化を図らないと若干税金で損をすることになります(退職金でどれだけ受け取るかが重要になりますが、状況次第)。
iDeCoの根幹である運用の実施の仕方ですが、商品は自由に選べますが、候補が絞り込まれています。具体的には、証券会社により35商品以内に絞り込まれている状況です。すなわち、証券会社選び=商品選びにもなる訳です。ですから、優良な投資信託が選択可能な優良証券会社を選ぶことが必須となります。また、年金運用を自分で、ということなので、資産の割合が崩れた場合にも自分で商品を選択して、バランスを戻してやる必要があります(リバランス)。リバランスのための商品買い替え(スイッチング)を定期的に実施する必要があり、この手間は人によってはデメリットでしょう。ただ、iDeCoの場合、リバランスをしても、そこで税金は発生しないので、リバランスしやすい制度になっています。
最後に、事務作業としては、「国民年金基金の番号が必要」「勤務先も関係する」というのがあります。昔ながらの古い会社だと、人質がごとくに国民年金手帳を預かられていたりするので、地味に調べるのが面倒です。また、iDeCoは初めに説明した企業型に加入している人は加入の可否が異なりますし、加入の有無で上限額も変わってきたりします。また、確定給付年金制度がある場合でも上限額が異なるという、細かい所で言うと割とめんどくさい制度になっています。ですから、勤務先に「どういった年金制度に入っているのか」を確認する必要があり、勤務先の会社が絡んでくることになります。これはケースバイケースですが、会社は事業主として協力することが法としても要請されています(iDeCoサイトー事業主の方へ)。
iDeCoのポイント
- 運用益が非課税で、所得税の減税措置が受けられる
- 年金もしくは一時金として受け取るときに税金が発生する
- 主な想定用途は年金用。そのため、原則60歳まで解約出来ない
NISA(2023年まで)
現行のNISA制度は2023年に終わりを迎え、積み立て分を持つ新NISAに変わる予定ですが、ここでは2023年までのNISAについて説明します。
現状のNISAは投資額にして年間120万円(つまり月10万円)もの金額について、売却益と配当に対し、非課税にする、という制度です。
投資可能対象は株、投資信託などです。非課税期間は5年ですが、5年毎にロールオーバーが可能で、行ってしまえば、「減税措置の更新」が可能な制度でした。
この制度ですが、実は、長期投資とは相性が良くありません。まず、5年という期間は長期の投資期間としては短すぎます。そして、一般的にはこの投資枠を長期投資で使い切れる人は少ないでしょう。なぜなら、月10万円分の投資をしないと、この枠は埋まらないからです。そして、月10万円分、投資に回すほどの経済的余力のある人は少数派でしょう。
ですので、このNISAの向いている用途というのは、短期~中期程度をターゲットに、ある程度の頻度で売買を繰り返し、その売買益を得ていく、と言った用途が向いています。NISAにおいて購入するのに使用した枠は保有銘柄の売却では復活しません。年が変わった時に枠が割り当てられます。そのため、売買が多すぎると、碌に利益が出ないうちにNISAの枠を使い切る可能性があることに注意が必要です。もしくは、突然の収入があって、それをまずは運用したいケースでしょうか。その場合はロールオーバーするかどうか、など別の問題が出てくるので、最適化という観点では難しいと思います。
2023年までのNISAのポイント
- 配当、売却益を含めた運用益が非課税。
- 減税期間は5年で、5年を過ぎた場合に移行先となるNISA制度があれば、枠内でロールオーバーが可能
- ロールオーバーしない場合、NISA期限の時の時価を取得価格として扱われる
- 短期・中期投資に向いている
積立NISA
積立NISAはNISAの別バージョンともいえるもので、長期投資にフォーカスをした物です。年間の枠は40万円という枠ながら、20年という長期に渡り、配当、売却益を含めた運用益が非課税となります。年利5%程度で運用が出来れば、40万円は106万円に増えます。売却益は66万円ですから、所得税が13万円ほどかかりますが、それが免除されることになります。
この積立NISAは、殆どNISAと同じ特徴を持ちますが、ロールオーバーがありません。20年の長期投資なので、ロールオーバーは不要、という制度設計でしょう。また、長期投資を目的とする制度設計上、単独株式の投資は出来ないことがデメリットとして挙げられます。そのため、投資対象は投資信託のみとなります(厳密には他の選択肢もあるが、実質的に投資信託のみになる)。
ただし、この投資信託ですが、国が基準を設けていて、それに適合する物にしか投資することが出来ません。これは、投資信託の手数料や運営コストがあまりにも世界標準からかけ離れて高いことによる措置だと認識されています。しかし、そのおかげで、積立NISAで選択できる商品を選べば、そこまで大きく商品を外さない、というメリットが生まれました。
積立NISAはiDeCoと同様の長期投資の制度ですが、大きく違う点があります。それは、スイッチングの時には利確をしてから、買いなおす形になる、ということです。つまり、これまでの非課税枠から銘柄を売却して、新しい非課税枠を使って買いなおす、という形になります。つまりスイッチングという観点でみるとiDeCoに劣る制度となります。ただ、iDeCoに比べ、資産流動性が高く、必要があればいつでも積立金の拠出を止められ、いつでも買い付けた投資信託を売却できる、というメリットがあります。資金拘束を嫌う場合には、iDeCoより積立NISAの方がリスクが低い制度と言えます。
積立NISAのポイント
- 配当、売却益を含めた運用益が非課税(NISAと同様)
- 減税期間は20年で、ロールオーバーはなし
- 投資対象は、国の基準に適合した投資信託のみ
- 長期投資に向いている
まとめ
以上を簡潔にまとめると、以下の通りとなります。
ココがポイント
- iDeCoは所得と税金を将来に「移動させる」仕組み。長期投資向けでスイッチングもやりやすい。
- NISAは短期売り買いに有利
- 積立NISAは長期運用に有利。スイッチングには一度利益確定が必要。
おすすめな利用制度の優先順位
最後に個人的な意見ではありますが、制度の優先順位について、共有します。
もし、上記制度を利用するのであれば、最優先は積立NISAかなと思います。資金拘束もなく、非課税のメリットが長時間受けられるので、制度としてリスクが低いです。
次に利用するのであれば、iDeCoです。NISA系は節税にはなりませんが、iDeCoは「収入が高い今」の節税になります。積立NISAでは投資資金が埋まり切らなかった時に検討するのが良いと思います。
最後、最も利用しないであろう制度が、通常のNISAです。短中期でトレードしている人は良いのでしょうが、年単位でトレードする個人長期投資家の人から見ると、5年という期間は短すぎます。また、積立NISAとどちらか一方しか利用できない、というのも背景としてあります。
各制度のメリット・デメリットを良く理解した上で、自分に合った資産運用をして下さいね。
参考文献
各制度については、以下を参照して下さい。
- iDeCo, 公式サイト:iDeCoの制度概要や特徴など
- 金融庁, NISA特設ウェブサイト:必要なことは大体全部ここに書いてあります